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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)2238号 判決 1985年12月25日

原告

森田茂富

被告

梶塚実

主文

被告は、原告に対し六八万三五七八円及び内金六二万三五七八円に対する昭和五八年九月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。

この判決は、主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し一八八万三八五三円及び内金一七一万三八五三円に対する昭和五八年九月一二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和五八年九月一一日午前一〇時三〇分ころ、東京都板橋区上板橋三丁目六番五号先路上において、車をとめて乗客を降ろそうとしていた際、被告の運転する被告所有の普通貨物自動車(以下「加害車」という。)に追突された。

このため、原告は、頸椎捻座等の傷害及び頸部運動制限筋張痛等の後遺障害を負つた。

2  原告は、本件事故により次のとおりの損害を被つた。

(一) 休業損害 一四八万五〇一六円

原告は、株式会社東京三和のタクシー運転手として稼動し、一日当り一万一三三六円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五八年九月一二日から同五九年一月二〇日までの一三一日間休業したので、合計一四八万五〇一六円の休業損害を被つた。

(二) 慰藉料 一八〇万円

通院三五七日(実治療日数一六六日)を要する傷害の慰藉料として九〇万円が相当であり、また自賠責後遺障害一四級に該当する後遺障害による慰藉料として九〇万円が相当である。

(三) 通院交通費 八万六三二〇円

これは一日往復バス、電車代五二〇円の一六六日分である。

(四) 温泉治療費 四万二〇九三円

(五) マツサージ代 五〇〇〇円

(六) 針治療代 一万二五〇〇円

(七) 診断書代 二〇〇〇円

(八) 諸雑費 二万〇五二〇円

(九) 逸失利益 五五万七二五五円

これは、労働能力喪失率五パーセントとして三年分(新ホフマン係数二・七三一にて計算)の逸失利益である。

(一〇) 弁護士費用 一七万円

(一一) 損害のてん補 二二九万六八五一円

原告は、本件事故による損害の補償として自賠責保険等から合計二二九万六五八一円の支払を受けた。

3  よつて、原告は、被告に対し前記(一)ないし(一〇)の損害合計四一八万〇七〇四円から(一一)のてん補額を控除した一八八万三八五三円及び弁護士費用を除く内金一七一万三八五三円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五八年九月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1の前段の事実は認めるが、後段の事実は否認する。

2  同2のうち(一)ないし(一〇)の事実は否認し(一一)の事実は認める。

3  同3の主張は争う。

第三証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告の請求原因1の前段の事実は当事者間に争いなく、成立に争いない甲第四号証の記載と原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故のため頸椎捻座の傷害を負い、昭和五八年九月一二日から昭和五九年九月三日まで医療法人財団織本病院に通院して治療を受けたが(実治療日数一六六日)治癒せず、昭和五九年九月三日頸部運動領制限、筋緊張痛の後遺障害を残して症状が固定したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  本件加害車は被告の所有であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、被告は本件事故当時加害車を自己のために運行の用に供していたことが認められるから、被告は、自賠法三条に基づき、本件事故によつて原告が被つた損害を賠償する責任がある。

三  そこで、原告の損害について判断する。

1  休業損害 一四八万五〇一六円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証の記載に原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時株式会社東京三和のタクシー運転手として稼動していたが、本件事故により昭和五八年九月一二日から昭和五九年一月二〇日まで一三一日間欠勤したことが認められる。そして、前掲証拠によれば、原告は、本件事故当時一日一万一三三六円を下らない収入を得ていたものと推認することができるから、原告は、一三一日間の休業により一四八万五〇一六円の損害を被つたものと認めるのが相当である。

2  慰藉料 一三〇万円

前記認定にかかる原告の傷害の部位、程度、通院期間、後遺障害の程度等諸般の事情を考慮すると、原告の被つた精神的・肉体的苦痛に対する慰藉料としては一三〇万円をもつて相当と認める。

3  通院交通費 八万六三二〇円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、自宅から前記織本病院に通院するためバス・電車を利用し一回五二〇円を支出したことが認められるから、通院一六六日分の費用の合計八万六三二〇円を相当損害と認める。

4  温泉治療費 四万二〇九三円

成立に争いのない甲第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六号証の各記載に原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、前記織本病院に通院中、医師の指示により山梨県西八代郡下部町で温泉治療を受け、その費用として四万二〇九三円を支出したものと認められ、これに反する証拠はないから、これは相当損害と認められる。

5  マツサージ代 五〇〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七ないし第九号証によれば、原告は、医師の指示により和光ラドン健康センターでマツサージ治療を受け、その費用として五〇〇〇円を支出したことが認められるので、これは本件事故と相当因果関係による損害と認めるのが相当である。

6  針治療代

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇ないし第一三号証の記載によれば、原告は斎藤鍼治療所で針治療を受けたことが認められるが、原告本人尋問の結果によれば、右は医師の指示によるものではなく、しかも原告の頸椎捻座の治療として有効かつ相当であつたと認めるに足りる証拠はないから、右支出は本件事故による損害とは認められない。

7  診断書代 二〇〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一四号証の記載によれば、原告は、前記織本病院から診断書の交付を受けた際その費用として二〇〇〇円を支出したことが認められるのでこれを相当損害と認める。

8  諸雑費

原告は、諸雑費として二万〇五二〇円を請求するが、その支出項目及び支出金額を確定するに足りる証拠はないから、損害として認めることはできない。

9  逸失利益

前掲甲第三号証の記載に原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、昭和五九年二月以降ほぼ平常に勤務し、同年四月までの三か月間に事故前とほぼ同額の合計一〇一万七五九九円(二月三〇万四五一八円、三月三四万六四七三円、四月三六万六六〇八円)の給料の支払を受けており、特に給料が減額されていないことが認められ、これに反する証拠はないから、逸失利益の損害は認めることはできないものといわなければならない。

10  損害のてん補 二二九万六八五一円

原告の以上1ないし5及び7の損害の合計は二九二万〇四二九円であるところ、原告はその損害の補償として自賠責保険等から二二九万六八五一円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、原告の残損害額は六二万三五七八円となる。

11  弁護士費用 六万円

弁論の全趣旨によると、原告が弁護士に本訴の提起と追行を委任したことが認められ、本件事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を併せ考えると、本件事故と相当因果関係にある損害として請求しうべき弁護士費用は六万円をもつて相当と認める。

四  よつて、原告の本訴請求は、損害賠償として被告に対し六八万三五七八円及び弁護士費用を除く内金六二万三五七八円に対する本件事故発生の日の後である昭和五八年九月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから正当としてこれを認容するが、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 塩崎勤)

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